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日本画と手仕事と暮らしの覚え書き
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梅雨直前のこの季節、山は藤の花が盛りです。私の住む一帯は、少なくとも15年前には20m級のアカマツやカラマツなどの木がたくさん有り、それに藤が絡むと見事な紫の大滝が幾つも出現したものでした。今は成金も田舎の人も、藤の大滝など、見向きもしない。カラマツごとばっさりです。

この紫の大滝(夏になれば葛の花の滝)の風景は、おそらく古代にも、中世にもあったことでしょう。だから藤の滝を見上げさえすれば、私は自分の好きな(何故か懐かしい)過去の時代〜古事記や風土記や今昔物語集の世界へ飛んで行ける。初夏は時間の扉が開くような気がしてなりません。

我家の藤は、大きな白樺に寄生する15年樹。今年やっと何十もの花房の、それは豪華な滝となりました。美しい。感慨深いです。こちらに居を構えてから、今年は今年はと待ち続けたのですもの。
一昨年やあっと幾つか咲き、去年は期待していたら地元業者に勝手に伐られそうになり(親切でやろうとする)寸でのところで止めました。幸い藤は二股だったので、幹に近い方だけは伐ったものの、幹から離れた一方を残せました。おかげで白樺の幹も傷ませることなく、共栄共存させられそうです。台風でも大雪でもこの白樺は、藤に支えられて怪我をしないのです。

去年、私に藤の花の記憶がないのは、金太朗猫の看病と見送りがあったからだと。本当に可愛い可愛い猫だった。今月中にお墓参りに行くつもりです。




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1900年より前のバラをオールドローズと言うそうです。現代風に洗練されたバラが登場する以前の、原種を含むバラの系統です。八重どころかごっちゃり溢れるような花びらの、もしくはさっぱりすっきり一重の花びらの、いずれも香りの素晴らしいバラたち。我家にあるのはヨーロッパの野バラ「ロサ・カニーナ」(ドッグ・ローズ)と「ロサ・ルゴサ」(ハマナシ)。いずれも一重の花。

ラテン語では、ロサはロゼッタ状に咲く花〜バラのことで、カニーナは犬のこと、ルゴサは皺が多いこと。なるほど、ハマナシの葉は皺が多い。ローズヒップはロサ・カニーナの、赤く大きく美しい実のこと。下界ではバラたちはとうに盛りを過ぎたでしょうが、山の我家ではこれから蕾が見えて来るところ。

私は人物なら何とか描けなくもない。けれど、花や果物や静物はとんとダメです。写生のような絵しかできません。でもオールドローズの類いなら、好きなだけに気持ちが動きます。小品にしてみたい。そう思っています。
私の数ある欠点の、特に困ったものは、たぶん「独り言」だと思います。独りで暮らしてきた年月(もう34年になるのね)が長いからでしょう。やれやれ、人様に指摘されるまで気がつきません。

他愛もないことを言っているならいいのです。いけないのは、欠片になれば聞き捨てならないことになってしまう文言を、中途半端に口にして、そのままフェイドアウトしてしまうこと。例えば、「困ったわね」だけ耳にすれば、相手は大いに気遣ったり、不信感を持ったり、怒ったりするでしょう。どうしてそうなんだとか、だからどうなんだとか、肝心の所が相手に届いてない場合です。

日頃独りだから、口を出る言葉も中途半端の自己完結で、他人を意識していない。するとああ、それはとても困ったことになります。後からいくら「そんなつもりじゃない」「誤解です」と言い訳しても始まりません。相手は時に激怒し、軽蔑し、悲嘆にくれたりする。いっぱい「ごめんなさい」を言っても、日頃の信頼など脆いもの、謝っても謝っても許してもらえないことも。
ほんと、落ち込みます。ああ、ああ、ごめんなさい。
衣替えだそうです。でも、寒いんですもの、夏服なんてとんでもない。地元の制服の中学生たちを見ても、誰も半袖なんか着ていません。冬の紺ブレザーの下に、毛糸のセーターを着込んでいる子だって少なくない。タイツ姿の女生徒も居る。私もまだまだ膝掛けとカーディガンが手放せないのです。

そうね、夏服は長いこと購入していません。子供の頃、私の夏服と言えば、半袖やノースリーブの綿のワンピースでした。青地に白の水玉、白地のサッカーに水色やピンクのストライプのが好きでした。パリリと乾いた、夏の洗いたてが好きでした。身に付けた時の肌の感触を、今でも覚えています。

最後に夏のワンピースを購ったのは10年も昔です。たしかバーバリーの、白地に青や紺のペーズリー柄の綿サテン。消耗品の半袖シャツだって、求めたのは3年は前です。全部きれいですから、今年も着るのでしょう。ちゃんと夏が来て、夏服の出番が有れば、ですけど。

ああ、5月はちょっと汗ばむ日もありましたのに。でも普段の年ならこの程度だったような。この2、3年が暑過ぎたと思います。だからって今年がもし冷夏になったら困るわ。






天候の変化が目まぐるしいです。気温の上下が激しいです。ストーブを焚いたと思えば、夜中に窓を開けていたり。周囲の環境の変化の激しさに合わせなくたっていいのに、お金が入ってもすぐに出て行きます。いろんなことの疲れが湿気とともに身の内に隠るようで、鬱な気分と風邪気味。

この1、2年、特に今年に入ってから、身内や仕事関係や周囲のあの人この人の為に、自分の大切な時間と体力と、また僅かだけどお金だって費やしてきました。そのことについては、私でも役に立てると有難く嬉しく思っても、けして嫌とは思いません。見返りなど思いもしなかったわ。

が、もはやいろいろなものが底を尽き、私の身体も心も疲れてしまったことも事実です。結果として勉強や制作が進まなかったのも事実です。化粧品代もケチり、古ぼけた衣服を直しながら着ていたのも事実です。月に3〜4000円の書籍代をやっとひねり出していたのも事実。

なのに。馬鹿呼ばわりされたり、軽んじられたり、容姿をなじられたり、傷つける意図で嫌みを言われる筋合いはないですよ。また「私が絵を描いてるのを見たことがない」などと言われると、たいへんに傷付きます。描いたのは個展に出したいような絵ではないけれど、高価な岩絵具を使わないものだったりはするけれど、暮らしのための絵ことは、心を裂き削るようにしてやっているのです。たとえ親でも彼でも親友でも、そう言う姿を人に見せたくないだけです。まして他人なんかに見せません。そもそも、人前で制作はできない性質ですし。

心のビタミン剤と言うか、先々にちょっと楽しいことがあるように、日頃から種まきをするといいそうです。でもその種まきの仕方がわからなくなりました。楽しいことが何かも今の私にはわかりません。もう別の世界で別の人生を歩みたくなります。この家土地を売り払って、犬猫を連れて、絵筆と本だけ持って。

こんな日はいけません。早く寝よう。
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