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日本画と手仕事と暮らしの覚え書き
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この冬、少女達の話題は某執事ドラマ一辺倒でした。バイト先の塾や近隣の、少女や母親等からもずいぶん話を聞いて、とうとう私も第3話から見始めました(ついでに原作まで読んじゃいましたっ。笑)。しかし、何なんだ。放映はもうとうに終了したのに、少女達はヒートアップする一方です。
おーい、大丈夫かー。春休み開けには直ぐに学力テストですよー。

ただ私が書こうと思うのは、そのドラマが、少なくとも1人の少女を救ったのではないか、と言う事です。DVから脱出して間も無い人間は、鳥カゴから放した小鳥が飛ぼうともせず呆然としているのに似ている。もしこんな時、男の怒声や暴力や卑猥な雰囲気を感じれば、それはもうとても危ない。ただやみくもに弱り切った翼でばたついて、暗渠に落ちたり、卑怯なカスミ網にかかってしまったりする。そしてさらに酷い環境で苦しむことになりかねない。
私はそれを案じて居たのです。

ドラマは非常に現実離れした設定でした。世間と隔離された別世界。快適富裕極まりない全寮制女学園。治外法権のこの学園に居る限り、両親どころか国家ですら学生の少女を自由にできないのです。少女を傷つけるなどもってのほか。学生である少女には、若く優秀なイケメン執事が専属で仕えます。少女らは、各々の執事達に日月星辰と崇められ庇護られて、誇り高く自分を磨いていく。執事は常に仕える少女の剣となり盾となり、全身全霊をもって奉仕するのです(オバサンが聞いてもうっとりする設定ですね)。そこへ、主人公の少女がとあるきっかけで心ならずも入学し、色々な経験をしていくのです(いいわー、少女コミック)。

世間の「あの家庭は普通でない」。ねえ、その普通とは何なんでしょう。世間の言う普通の家庭と、あの少女の家庭と何処がどう違うのですか。同じですけど、傍目には。誰一人少女を庇う者が居ないのも。少女が独りぼっちなのも。亭主が、家の男が、怒鳴り散らし家族に暴行を繰り返し始めるのが、ちょっと遅いか早いかの違いかもしれません。それを、あなたが知らない、もしくは知ろうとしないだけではありませんか…。

少なくとも一人の少女が命からがら逃げおおせたのです。良かった!それを知った時、私は心からそう思いました。もう、危ない恐ろしい悲しい目に遇ってほしくありません。傷つけられたくありません。でも逃げることにせいいっぱいだったし、まだまだ倒れているだけ。このままではまた危ない目に遇いかねない。どうぞ自分の力で立ち上がってほしい…。

そう、貴女はまだ男の人の姿を見るのも声を聞くのも怖かったのですね。私にはどうしてあげることもできませんでした。ただ傍らのガラス窓の白い頬を見ているだけしかできませんでした。ああ、はじめはそのドラマだって怖かったのですね。でも執事役の男の人が、仕える相手である主人公の少女がどんな過去を背負っていても、心を閉じていても、「どんなことがあっても離れない」「貴女が戦う剣となり、貴女を護る盾となる」と繰り返し言ったのですね。
ドラマの主人公の少女は何度倒れても立ち上がり、けして告げ口をせず復讐もしない。敵すらも庇い気遣う。それは傍目から見れば損でもどかしい方法、遠い回り道です。やがて主人公の少女は大切な人のために戦おうします。すると最初は冷たかったクラスメート達もいつしか「貴女の味方よ」と言うようになり、共に戦ってくれるのですね。

そうですか。それがテレビのオハナシの中の夢であっても、貴女はその方法を信じてもいいかもしれないと思ったのですね。そんな人が男性が、世の中の何処かに居るのかもしれないと、世の中、怒鳴り殴り蹴り倒す男ばかりではないかもしれない、同級生とは、傷だらけの自分を嘲ったり虐めたりするだけではないかもしれない、と思ったのですね。
それ、かなりすてきです(執事役の俳優さん達もすてきでしたね)。馬鹿になんかしませんよ。私よりずっと賢いです。
ああ、良かった。ともかく私は、貴女に独りぼっちにもなってほしくありません。

そのドラマは、登場人物が誰一人として不幸なまま終わりませんでした。誰一人として泣き顔で終わりませんでした。狭き門をくぐれ、ではないですが、誰もがその背に荷を担いつつ時には他人の荷まで背負って、困難な道を進もうとしました。誰もが自分よりも相手に先に狭き門をくぐらせようとしたのです。そうして、誰もが笑顔になって、このドラマのお話が終わったのです。

現実には救いのないニュースばかり。なのにねえ…えっと、救いのないドラマや小説はかっこいいんですかね、テレビ屋さん本屋さん。馬鹿馬鹿しいのはどっちですかね。
なんていって、私は「告白」と言う、何処にも救いのない、湊かなえの小説を読んだばかりです。やはり学生と教師と親の、現実より現実的なお話を。



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